美容クリニックのカウンセラー問題—知っておくべき国の基準と、後悔しない選び方
おはようございます!よしき皮膚科・形成外科、院長の吉木です。
それでは本日の診療所日記をお届けいたします。
今回もちょっと長いですが、昨今問題になっている「美容カウンセラー」とか「美容コンシェルジュ」問題についてお伝えいたします。
ふとした違和感
美容クリニックのカウンセリングを受けたとき、こんな経験はありませんか。
案内された個室で、白衣を着た、感じの良いスタッフが、悩みをじっくり聞いてくれます。いくつかの施術を紹介され、話を聞いているうちに、気づけば契約書にサインをして、その日のうちに施術を受けていた。
後になって、ふと思うのです。「あのとき、私の治療方針を決めてくれたのは、本当に医師だったのだろうか」と。
実際、消費生活センターに寄せられる相談の中には、カウンセリングの個室で長い時間説得を受け、当初の想定よりずっと高額な契約をしてしまったという声が、数多く報告されています。「今やった方がいい」「今日決めれば安くなる」という言葉に背中を押され、後から冷静になって後悔する。そうした経験をお持ちの方は、決して少なくないはずです。
そしてもし、これから美容医療を受けようと考えている方であれば、なおさら気になるところではないでしょうか。
「自分が選ぼうとしているクリニックは、大丈夫なのだろうか」と。
私が感じる違和感
実は、こうした違和感を抱いているのは、患者さん側だけではありません。
私は皮膚科の専門医として、そして美容皮膚科を含めたクリニックの院長として日々診療にあたっています。
その立場から、正直に申し上げると医療資格を持たないカウンセラーや、医師の指示のない看護師が、患者さんの治療方針を実質的に決めてしまうという状況にずっと疑問を感じてきました。
他院でカウンセリングを受けた経験のある患者さんから「あのとき話していた人は、本当に先生だったのだろうか」と不安な表情でお話を伺うことも過去にありました。。
私としての考えは、真っ当な医師であればその患者さんにとって本当に必要な最小限の施術しか提案しないものだと考えています。けれど、現実にはそうなっていないケースが、今も少なからず存在しています。
なぜ、こうした状況が続いているのか?その背景には美容医療という自由診療ならではの構造的な事情があります。
なぜ今まで変わらなかったのか
大規模な美容クリニックの中には低価格な施術を入口として打ち出しながら医療資格を持たないカウンセラー(最近は名前を変えて「コンシェルジュ」などとうたっているところもありますね)や看護師スタッフが必要のない施術を次々と勧め、医師は最後の数分だけ患者さんと顔を合わせるという仕組みで運営されているところもあります。回転数を上げ利益を積み上げるためには、この仕組みが都合が良いからです。
厚生労働省の検討会でも、こうした契約の進め方や、不当な勧誘につながりかねないインセンティブ制度のあり方が、課題として指摘されています。実際、美容医療サービスに関する相談件数は、2018年度の1,980件から2022年度には3,709件へと、5年でおよそ2倍に増えています。
こうした状況を受けて、2025年8月、厚生労働省は「カウンセラーだけで治療方針を決めるのは医師法違反にあたる」とする通知を全国の自治体に向けて発出しました。
けれど正直に申し上げると、私はこの通知が出てから現場の実態がどこまで変わったのか疑問を感じています。通知を出しただけで、実際に罰則を受けた事例が明らかにならない限り、この状況はなかなか変わらないのではないか、とも思っています。
医療機関側の認識の甘さもありますが、患者さん側にとっても「何が違法で、何がそうでないのか」という基準そのものが、ほとんど知られていないことが、状況を難しくしている一因だと感じています。
ここから先では、この通知の内容を実際皆さんが美容カウンセリングを受けたときに使えるチェックポイントに落とし込んでお伝えします。医師に何を聞けばいいのか?契約や広告のどこに注意すればいいのか?
そして当院がこの問題に対してどのような形で向き合っているのか。
派手な解決策があるわけではありません。ただ、読み終えたときに、次にクリニックへ行くときの心構えが今より少しだけ具体的になっている。そうなっていただけたら幸いです。
厚労省通知を「使えるチェックリスト」に翻訳する
改めて厚生労働省が2025年8月15日に出した通知の中身を実際にクリニックの場で使える確認項目に置き換えてみます。
通知は、無資格者が行うと違法になる行為を、いくつかの場面に分けて示しています。これを観なさんがそのまま使える形に整理し直しました。
一つ目は、治療方針の決定です。
患者さんの希望を聞いた上で具体的な治療方法を選んで提案したり決定したりする行為は、たとえ「料金の説明」という体裁を取っていたとしても無資格者が行えば違法にあたります。ここで注意していただきたいのは、「最終的にサインしたのは医師だから大丈夫」という考え方は必ずしも正しくないという点です。
実質的にどの施術にするかをその場で決めて伝えたのが誰だったか、というところに判断の基準があります。
二つ目は、看護師等のみによる治療です。
医師の指示がない状態で看護師が脱毛や注入といった医療行為を単独で行うことも違法とされています。
「担当が看護師さんだから安心」ではなく、その指示を誰が出しているかが重要です。
三つ目は、オンライン診療の扱いです。
メールやチャットのやり取りだけで診断や処方が行われている場合、これも医師法違反にあたる可能性があります。画面越しであっても、医師によるリアルタイムの診察が行われているかどうかを確認する必要があります。
四つ目は、診療録の記載です。
これは患者さん側から直接確認しづらい項目ですが、きちんとした医療機関であれば、初診時の問診内容やカウンセリング内容が記録として残っているはずです。
そして五つ目が、広告の表現です。
通知では、患者さんの体験談を医療機関への誘引目的で紹介する広告や、加工・修正した術前術後の写真、「日本一」「No.1」といった比較優良表現も、規制の対象として明記されています。派手な言葉で語られている広告を見たときほど、一度立ち止まって考えていただきたいところです。
こうして整理すると、私たちが日常的に見聞きしている美容医療の広告や接客の中に、実はいくつも当てはまる場面があることに気づかれるのではないかと思います。
では、実際にカウンセリングの椅子に座ったとき、この基準をどう確認すればよいのでしょうか。
カウンセリングの場で使える質問リスト
カウンセリングの椅子に座ったとき、意識して確認していただきたい聞き方がいくつかあります。
まず、「今日、実際に治療方針を決めるのはどなたですか」と聞いてみてください。
もし「まずは私がお話を伺って、後ほど医師が確認します」という答えが返ってきても、それだけで違法とは限りません。
ただ、その後医師がどの程度きちんと診察し、方針を検討し直す時間を取ってくれるかは注意して見ておく必要があります。
医師が最後に数分顔を出すだけで実質的な決定はすでにカウンセラーの説明の中で終わっている、というケースが最も注意すべきパターンです。
次に、「先生に直接、リスクや副作用について伺うことはできますか」と聞いてみてください。
これに対してはっきりとした返事がなく、話をそらされるようであれば、慎重になった方がよいサインです。
そして、「今日中に決めないといけませんか」という一言も実際に役立ちます。
国民生活センターに寄せられる相談では、「今やった方がいい」「今なら間に合う」といった言葉で契約と施術を急かされたケースが数多く報告されています。美容医療の多くは、緊急性のある治療ではありません。持ち帰って考える時間を求めても、本来何の問題もないはずです。
もう一つ、意外と見落とされがちなのが、「今回提案いただいた施術以外に、選択肢はありますか」という質問です。
誠実なクリニックであれば、複数の選択肢とそれぞれのメリット・デメリットを説明してくれます。逆に、最初から一つの高額なプランに話が集約されていくようであれば、少し立ち止まって考えていただきたいところです。
なお、受付やお着替えの案内、問診票の確認などをスタッフの方が担当すること自体は、ごく一般的なことで問題ではありません。注意していただきたいのは、あくまで治療方針そのものを最終的に誰が決めているか、という一点です。
これらの質問は、相手を試すためのものではありません。むしろ、きちんとした医療機関であれば、こうした質問を歓迎してくれるはずです。答えづらそうにされたときこそ、そのクリニックとの向き合い方を見直すきっかけになります。
契約・料金まわりのチェックポイント
契約や料金の場面でも、知っておくとご自身を守れる知識があります。
まず、モニター価格という言葉です。国民生活センターに寄せられる相談には、「モニターになれば安くなる」と説明され、その場で高額な契約をしてしまったケースが複数報告されています。モニター料金自体が悪いわけではありませんが、「今日だけ」「今この場だけ」という条件とセットで提示された場合は、一度冷静になって考える価値があります。
次に、クーリング・オフの制度です。美容医療の中には、特定商取引法が適用されるものがあります。期間が1か月を超え、金額が5万円を超える契約であれば、契約書面を受け取った日を含めて8日間はクーリング・オフが可能です。また、モニター契約のように無料や格安をうたって契約させる場合は、20日間のクーリング・オフが認められています。この日数を知っているだけでも、契約直後の判断に落ち着きを取り戻せることがあります。
金額の相場感も、参考として知っておいていただきたい数字です。2022年度の統計では、美容医療の平均契約購入金額は約56万円、契約金額が50万円以上100万円未満というケースも17.4パーセントを占めています。もちろん、施術の内容によって適正な金額は大きく異なりますので、この数字自体を基準にする必要はありません。ただ、提示された金額が、ご自身の想定や他院の相場と比べて極端にかけ離れていないか、契約前に一度確認していただきたいと思います。
分割払いについても、注意が必要な場面があります。クレジット契約の審査を通すために、実際の年収や貯金額と異なる金額を申告するよう案内されたという相談も報告されています。どのような理由があっても、事実と異なる内容を申告することは、ご自身にとってもリスクになります。断る場合は、「お金がないので」ではなく、「契約しません」とはっきり伝えていただければ十分です。
そして、もし契約後に不安を感じたり、トラブルになったりした場合は、一人で抱え込まず、消費生活センターに相談してください。全国共通の消費者ホットライン「188」につながれば、最寄りの窓口を案内してもらえます。
料金や契約の話は、施術そのものの効果や安全性とは別の問題です。ただ、これを知っているかどうかで、後悔の度合いは大きく変わってくると、私は考えています。
公式サイト・広告を見るときの着眼点
来院前に、公式サイトや広告を見て情報収集する方も多いと思います。ここでも、通知の内容を知っているかどうかで、見え方が変わってきます。
まず気をつけていただきたいのが、体験談の扱いです。通知では、患者さん自身の体験や、家族からの伝聞に基づく主観的な体験談を、医療機関への誘引を目的として紹介することは、禁止されている広告表現として明記されています。
「本当に良かったです」といった感想が、いかにも自然な形で並んでいるサイトほど、実は注意が必要だということです。
次に、術前術後の写真です。加工や修正が加えられた写真や、治療の内容・費用・リスクについての詳細な説明を伴わずに、結果の写真だけが並んでいる場合も、規制の対象とされています。きれいな仕上がりの写真に目を奪われそうになったときこそ、その下に費用やリスクの説明がきちんと書かれているか、確認していただきたいと思います。
また、「日本一」「No.1」といった最上級の表現や、他院より優れているという比較表現も、原則として禁止されています。こうした言葉を前面に押し出しているサイトを見かけたら、その言葉の根拠までは書かれていないことが多いという点を、頭の片隅に置いておいていただければと思います。
一方で、誤解していただきたくないのですが、詳しい施術内容や料金、リスクについて丁寧に説明しているサイトがあること自体は、問題ではありません。むしろ、患者さんが自分から求めて情報を得るためのウェブサイトについては、一定の条件を満たせば、通常の広告よりも詳しい内容を掲載することが認められています。情報量が多いサイトが悪いのではなく、その情報が誇張や体験談ではなく、施術内容・費用・リスクという事実に基づいているかどうかが、見るべきポイントになります。
私自身、自分のクリニックのサイトを作るときにも、この基準はいつも意識しています。良く見せることよりも来院する前に必要な情報がきちんと伝わっているかどうかを優先しています(もし「ココおかしいんじゃないの?」とお気づきの点があればいつでもご指摘くださいませ!)。
来院前のわずか数分の下調べが、当日のカウンセリングでの判断を、ずっと落ち着いたものにしてくれます。
医師が一貫して担当するとどう変わるか
ここまでお話ししてきたことを踏まえて、私自身のクリニックでの取り組みについても少しお話しさせてください。
私は開業した当初から、カウンセリングから治療方針の決定まで、一貫して自分自身で行っています。
これは、何か特別な工夫をしているという話ではなく、医師法に照らせば、本来当然のことだと考えているからです。
私は以前から医療資格を持たないカウンセラーや医師の指示のない看護師が治療方針を決めてしまうという状況にずっと違和感・疑問を感じてきました。
真っ当な医師であれば、その患者さんにとって本当に必要な最小限の施術しか提案しないはずだと思っています。けれど、大規模なクリニックの中には、それでは経営が成り立ちにくいという事情を抱えているところもあります。入口では低価格な施術を打ち出しながら、必要のない施術を次々と勧め、医師は最後に少し顔を合わせるだけ。
そうして効率よく利益を積み上げる仕組みが今もなお珍しくないというのが、私の実感です。
当院で提供している施術もこの考え方に基づいて選んでいます。シミにお悩みの方にはピコレーザーやIPL、たるみが気になる方にはHIFUのリフテラV、ニキビやニキビ跡には症状に応じた治療、医療脱毛にはGentle Max Pro Plusといった機器をそれぞれの状態に合わせて使い分けたり、場合によっては併用したりしています。
どの治療を選ぶかを決めるのは、カウンセラーではなく、実際に診察をした私自身です。
そして必要のない施術は、えてお勧めしていません。
これは、私が特別に高い理想を掲げているという話ではありません。
一人ひとり、肌の状態も、生活も、悩みの背景も違います。だからこそ、その方を直接診た医師が、責任を持って方針を決めるべきだと、私は考えているだけのことです。
厚生労働省が通知を出してから1年近くが経ちますが、正直なところ、現場の実態がどこまで変わったのか、私には疑問が残っています。罰則を受けた事例が明らかにならない限り、この状況はなかなか変わらないのではないか、とも感じています。だからこそ、患者さん側が自分自身で見分けられるようになることには、大きな意味があると思っています。
まとめ
ここまで、国の通知の中身から、カウンセリングでの質問の仕方、契約・広告の見るべきポイント、そして当院での取り組みまでお話ししてきました。
最後に、読み終えた今日から、実際にできることを整理しておきます。
一つ目は、次にクリニックへ行く予定がある方は、この記事で挙げた質問のうち、いくつかをメモしておいていただくことです。すべてを覚えておく必要はありません。「治療方針を決めるのはどなたですか」という一つの質問だけでも、その場の空気は変わります。
二つ目は、契約前に一度持ち帰って考える、という選択肢を、自分の中に残しておくことです。その場で決めなければならない美容医療は、ほとんどありません。
三つ目は、公式サイトを見るときに、体験談や比較表現ではなく、施術内容・費用・リスクという事実がきちんと書かれているかどうかに目を向けることです。
これらは、どれも今日からすぐにできることばかりです。
美容医療は、ご自身の希望を叶えるための、前向きな選択のはずです。その選択を、後悔のないものにするために、今日お伝えした内容が、少しでもお役に立てば嬉しく思います!
それでは今日も健やかな肌で素敵な一日を過ごしていきましょう!